永遠を焦がれるままに。A writer;美城丈二Another face綾見由宇也
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『恋闇』物語稿4・美城丈二
2006-11-27 Mon 18:49
 物語稿『恋闇(こいやみ)』
  4
 起きしな、マネージャーの卓巳にいきなり切り込まれる。
 「先生、いやに今日の収録、乗り気みたいで・・・」
 汗さえじんやり背筋を手繰(たぐ)って、彼は不快な息を吐いた。
 いつもどおりでは無い、ホテルのベッドの窓辺から見渡せるひとの往来は平日では在り得ないほどの閑散さを物語ってはいたが、
 とはいっても、いまや朝の顔、として、全国区ならではの知名度は抜群で、彼もこの九時には、九州地方局のインタビュー収録と、コマーシャル出演依頼の一私企業担当者に逢わねばならず、ひとり背広をかけていつまでも寝転ぶわけにはいかなかった。撮られる側と撮る側、いまやその両天秤に彼は息づいており、そのこころ休む暇が無かった。
 ちらりと、ひとりの安楽を望む、などと意識はそれらへと浮遊しかけたが、「いや、かつて望んだものさ」ともうひとりの彼が、いまの彼をなだめた。時は、確実に彼を押し上げ、彼は見果てぬ夢に向かって、いまや刻々と疾駆している。ドアーを開けたら、開けたで、剣呑、ファンとおぼしき一介の女人が、すみません、サインをくださいと早速げに子走り寄せる。
 (いまのいままで、ずっと・・・)出てくるときまで待ってたの!?、そういう野暮言いはぐっと飲み込んで作り笑いを軽く、ポーズなんぞも決めていなし、エレベーターは使用せず、さっさとその視界から消えた。
 ほんの七月(ななつき)、いや、八月(やつき)前と比べ、彼に接してくるひとの装いが憧憬と神秘的なものを見つめるかのようなまなざしに変化(へんげ)している。たとえば、いま、彼と対面している彼女は一私企業のコマーシャル編成担当者に過ぎぬわけだけれど、「わたし、あなたのファンなんです」といきなり、公私混同したかのような世辞を呟いてくる。なのに、その見つめるまなじりの辺りを彼は、見つめる風もなく見つめているが、少し濡れているの?と想わせるかのようなアイシャドウーの引きようが、なんとも彼の自尊心をくすぐり、悪い心持ちはしなかった。
 こと、ここに至って順風満帆、時代は確実に彼に味方し、追い風は涼風、彼には心地良いことこの上も無かった。「暗い、じめじめしている」このイメージが「思慮的、若いのにえらく渋くて格好いい」とあっさり世情の風は覆り、その腹の底、彼は(世間なんて所詮、こんなものよ)とちゃっかり舌を出したい気分でもあったが、そこはやはり十代時分に辛酸を舐めている。ここはひとつ、「恒に深々とお辞儀をしているかのような」気分であるのが良かろう、などと彼もまた如才無く考える思慮を配してもいた。
 この日、午後からTV局が誂えた豪奢な乗用車の後部座席に陣を取り、彼は文壇寵児の先生とやらが待つ、赤坂の料亭へと向かった。その車中、またぞろ、彼の只中で、弱気の虫が這い出てきた。
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『恋闇』物語稿3・美城丈二
2006-11-09 Thu 17:22
 物語稿『恋闇(こいやみ)』
  3
 君枝特有の含みを帯びた言い様。
 「変な趣味、嗜好があるという噂だ」
 「変な趣味、嗜好って?」
 「その小説を地でゆくかのような男色趣味」
 「まじ、かよ?」
 「ああ、まじさ。俺はまぁ、そういう人間性に関わる非難はどうかよ?とは想うが、まぁ、どういう形であれ、逢うのなら気をつけた方がいい」
 そんなこんなの言い草の君枝にしても、彼は二十歳(はたち)そこそこ、文壇では新人登竜門の雄とも謳われた『久下賞』を、受賞し、いまどき珍しい文壇批判をその後、ふんだんに各派文芸雑誌で披瀝した、過去経歴の持ち主だから、仮屋園信司にしても、またかという想いの方が強い。ちなみに君枝はその後、如才無く、まぁ、何食わぬ顔でそれら文芸雑誌に差し障り無く、小説を公表し続けているから、その口の方も達者とは言い得るだろう。
 「それよりか、きっこちゃんとは上手くやってるのか?」
 「フフッ。なんだよ。いきなり切り込むね。きっことは上手くやってらあ」
 「嘘付け!この前、そのきっこに逢ったぞ」
 「・・・逢ったって?どこで?」
 「ハハッ。お前らしい。すぐ、そう、むきになる。新宿の雑誌社だけどな。この頃、お前があんまりにもつれないんですって嘆いていたよ」
 きっこは、彼の幼馴染で、いまや全国区の彼にしてみれば、視聴者層に知られたくは無い、彼のそれこそ過去をよく知る異性だ。彼は話しが、文壇先生から痴話話へと移行したのを幸い、いい加減に言葉を見繕って電話を遮断、した。君枝はまた、仲間内でも有数の「語り屋」として知られてもいたから、とにかく用件が用件だけに終わらない性質だから、さっさとその用件が済めば受話器を置くのが宜しい。
 さて、文壇先生、どう、出てくるや・・・?
 なんだかんだとそう、は言いながら君枝のうんぬん、一了見を聞き込んで、彼はその心根、ひと悶着、した。
 収録の前か、あとか、何か言い募ってくるのか?
 彼は、実際はまったくもって気弱な男であった。
 君枝はただ、あまりに急激に売れ出した彼、仮屋園信司を、「ちょいとからかってやろう」ぐらいにしか想っていず、その噂も飽くまでも創造の域に過ぎないかも知れぬのに。
 その夜の彼は頻りに物想いに囚われ、翌朝、白む霧もやが眩いばかりに感じられた。
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『恋闇』物語稿2・美城丈二
2006-11-09 Thu 12:13
 物語稿『恋闇(こいやみ)』
  2
 遂に、というのはまぁ、それ、彼には彼なりの十代、懊悩(おうのう)のとき、というものがあっていろいろ煩瑣な出来事を潜り抜けており、不純ではないが純真ではない野望が存し、それはまだ漠然とはしていたが、将来はやはり何がしかの実業家として怠惰ではないが凡庸とした、のんびりと生きていけるくらいの余生を送りたいが為に、お金も一般人的には在り得ない額のものを得たいという、ささやかな欲望、希望、羨望。
 彼はその為に、出方はどうでも良い、まずは顔を売ろう、そうして多くの有識者、見識者に出逢い、研鑽(けんさん)を深めようと、そのタレント業に足を踏み入れた次第、ことの成り行きというものであった。
 そんな彼が、番組の一企画で、さる著名な文学者と収録を兼ねた会席の場に赴くこととあいなり、その前日、前認識とばかりに、その著作をぺらぺらと繰ってみた。彼は、無論、その著名なる文学者の名を知ってはいたが、いまのいままで一度もその物したものを拝読してはいなかった。
 ちょっと彼は弱ったなと想い、ちょうどその著作をめくっていた矢先、連絡してきた大学同窓の作家、君枝稜之介(きみえだりょうのすけ)に、その文学者の紐解いた著作に関することや、その人となりを聞いてみた。聞いてみたところ、やや気がかりになるようなことを君枝は呟いたのだ。
 「何?、文学者としてはそう、たいした作家じゃない。書いてるものは支離滅裂で、まぁ言わばさ、カルト的人気を得ているというか、一部愛好家の注目の的、というの?、あっち系のものが多いからな」
 「あっち系と言うと?」
 「ハハッ。あっち系といったら決まってる。SEXと暴力、その底に流れるコアなサゾマゾ志向。まぁ、つまらん小説の類いよ」
 「けど、次期ノーベル賞作家、最右翼なんて言われてるじゃないか?」
 「だからよ!世も末っていうかよ、厭になるんだけどな。『うたたねの燐者(りんじゃ)』『舞夢(まいゆめ)』あたりを押さえとけば問題無い作家、さ」
 「なんだって?うたたねの・・・」
 「『うたたねの燐者(りんじゃ)』『舞夢(まいゆめ)』。まぁ、出来はそこそこ、俺は全く好みじゃないが・・・。まぁ、まぁよ、だからと言って俺がそう、言ったなんて間違っても言うなよ」
 「言うわけはないが、なんだ、そのぐらいの認識でいいの?」
 「いい、いい。その二作を押さえといて・・・。まぁ、お前なら一晩で読み切る。すぐその底に流れる観念というか、価値観?いやなんだろう、感性みたいなものはすぐ判然と出来る安っぽい小説、なんだろうよ。ただよ・・・」
 「・・・ん?ただ、なんだよ?」
 「妙な噂がある」
 「妙な噂?」
 「むふふっ。それがよ・・・」
 と、そこで君枝はひとり勘考ぶって、言葉を切った。
 「なんだよ、もったいぶんなよ」
 「お前、気をつけるがいい」
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『恋闇』物語稿1・美城丈二
2006-11-08 Wed 09:25
 物語稿『恋闇(こいやみ)』
  1
 タレント・仮屋園信司(かりやぞのしんじ)は、この四月から、ある某在京TV局の、朝の帯番組のメーン司会者に抜擢された。そこそこに売れ出した矢先の起用で、いわば古くからの縁故であったプロデューサーの肝いりでことはそう、なったわけだけれど、関係各位は彼の起用に一抹の不安をみな、抱いていた。
 なにしろ総じて、見た目的な印象が暗いのである。剛毛でボリュームのある髪、それらが顔半分を覆いつくしており、きりりとした痩せぎすの顔立ちから、訥々(とつとつ)としたコメントが発せられる。つんと伸びた眉、一重で切れ長の双目(ふため)、すぅーと鷲鼻そのものともいうべき鼻筋、そうして大きく、まるで子供の頃に流行った口裂け女のように上へ上へと広がる口、これらは全国の視聴者に朝の憩いのひと時を送らねばならぬ番組上の嗜好としては、やはりあまりにも不具合に想われたからだ。だが、世情とは面白いもので、番組前に名うてのヘアーデザイナーに陰影良く整わされたわけでもなかろうはずなのに、その訥々としたコメントがまぁ、的を得ているとして、概ね好印象と評判をとった。事実、番組に寄せられる視聴者の声なるものはなかなかで、彼を押したプロデューサーもほっと胸をなでおろした次第ではある。
 この場合、彼を救ったのは、そのタレントになる以前の、この国内最高学府の大学在籍中であったという素地、教養というものであったろうけれど、貧しき青春時代を受け、はっきりと「悪は悪」と糾弾するかのようなコメントの数々も、彼には追い風となった。時に、その発言の数々は関係者をひやりとさせるものもあったけれど、視聴率は日増しにぐんぐんと上がり、いまでは高視聴率層で安定、彼の名も一躍、全国に轟くこととあいなった。
 実際、もっともその胸なでおろしたのは、他でもない彼のはずで、ひょんなことからタレント業なる浮世の仇花的仕事に就いた彼としても、朝のワイドショー、その総合司会なるもので、勇躍名を馳せるなら本望、そこで売った顔というやつで、この先、なんとでも転進出来ようから、まずは首尾は上々、出方はどうとでも、売れればそれで良し、とばかりに、彼も柔らかい息を遂に吐くことが出来た。
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| 美城丈二@魂暴風;Soul storm*a dawn note |
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