永遠を焦がれるままに。A writer;美城丈二Another face綾見由宇也
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掌編稿『東京』The latter part
2007-01-12 Fri 09:34
  弐
 たなびく雲の切れ切れにススキの穂が影を成す。秋、です。そよ、と吹いた風に揺れる針葉樹、その枝葉の隙間さえ、そうと想えば我が子の在りし日を偲ばせる。あの子はここで眠っている。先年、亡くした実子の墓に参り、手を合わす。まだ幼かった。六歳、だった。病(やまい)に伏せ、息も絶え絶え、ゼーゼーと喉を嗄(か)らしており、見ているこちらの胸中が締め付けられるほどに痛々しかった。一体、生まれる前からそういう運命だったのか。嘆かざるをえぬ、衝動を抑えられぬほど、病弱な女の子。僕は親として男として大人として、何もしてあげられなかった。翻って自身の脆弱さを悔やんだ。そんなことしか、想い、至れない。あれからもう、十四年。月日の移ろいは、たとえば、この手に乗せる落ち葉を容易く拾えるほど、安楽なものじゃあ無い。

 そうとも知れず、潮は吹く。
 ざぶんざぶんとここまで、匂い立つ。

 段を踏む。踏みしだく。線香の匂いが心地よく、僕に香る。独経が聞こえてくる。じっと四隅で正座して、耳を澄ましてみる。安らかに、あの子は眠っているだろうか?いまだに聞こえる。消え去らない。あの子の泣きじゃくる声。僕こそが、あの子を憂えてあげなければこの先も、こののちも僕に生きる証明(あかし)は無い。
 この先、まだまだひとり。僕は僕を返り見ない。

 お堂のお釈迦様が何か、呟きになられたのか?ふと、僕は気持ちを落ち着かせようと、鎮座したままみじろぎもしない。この古里(まち)の三時を知らせる鐘の音(ね)が聞こえてきた。だが、ざぶんざぶんと、僕のこころは掻き乱されて、潮騒に溶け入ってしまい、これじゃあ、元の木阿弥と微苦笑。この日ぐらい、透明な想いのままでいたかったのに・・・。  


  参
 コートの襟(えり)が木枯らしに包(くる)まっている。冬、です。一室に駆け込むなり、灯油が切れていることを知り、フンと唸ったのち、また外気を吸いに白雪の最中に走り込む。
 窓辺に蒸気が上がり、月の下弦を引きずって、やがて、何もかもが見えなくなれば、僕はこの部屋にまたひとりっきりだということをおのずと悟る。カラカラとストーブが音を成し、あらゆる不自然な、それ以外の濁音を遮断してしまえれば、もう僕は自分の世界に浸れる、(筈)。それが、僕のいまの生活というものです。生きれるだけ生きてみようと想い至り、死んでなるものかと容赦なく自身を叱咤してみる。

 ようやく、ここまできた。

 橘さんから電話をもらい、「今年の大晦日はおまえのうちで越す」というものだから、年越しそばを作っておいた。なのに、来る段になって既にどこかで「程好い気分」になったのか、そばなど食わぬ、という。まあ、いい。そういうひとだから。
 芋焼酎がやけに今夜は沁みる。ぐいぐいと飲み干す。また起き掛けにと伸びていた橘さんがひょっこりと座り直し、ギターを傍らに唄いだした。
 雪はしんしん積もっている。寝正月というわけにもいくまい。凧揚げとカルタとビー玉遊び。メンコに雪合戦にヨーヨー。なんでもやった、あの正月はもう、来ない。

 唄えと唄え。東京のあの空を想いだすじゃあないか!?ごろんと高いびきの橘さんを背に、僕はまた一年、歳をとる。

  終

 花萌えて、また四十雀(しじゅうから)が鳴きそよぐ。春、です。僕は軒で食えない「ご本」を編んでいる。こうしていまだ昨年も一昨年(おととし)もこんな感じで時が巡る。
 今日は、風もどこ吹くそぶりで、僕の心根を締め付けない。苦渋に満ちたあの頃は、煩瑣な日常にへどを吐きそうだったあの頃は、予期せぬことがこれでもかこれでもかと起こり、無碍(むげ)無残に打ち砕かれていたあの頃はいまや、遠い遠いお話しの最中。こんな日がときにはあっても、良いですよねえ!? 
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別窓 | 美城丈二“あの頃を憂う、いくつかの掌編物語” | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
掌編稿『揺れている、影。』第十稿
2007-01-10 Wed 17:21
 
 揺れていた、影。その心だけが揺れている。
 
 頬を危(あや)めた傷と取り押さえる際に刺された右肩付近から噴出した血痕を、さも傍目に見やるかのように立ち上がったまでは覚えているが、その後、去っていく警官の後ろ姿を一瞥した辺りから、まったく記憶が定かでは無い。

 ‘人形町に有る雑貨屋のレジでバイトをしていたあいつを始めて見知ったのは、僕が二十歳(はたち)の学生時分の頃、だった。あいつは、ありふれた、どこにでもいそうな女性だったけれど、僕が購入しようと差し出したアンティ-クな感じの女の子が傘を立て本を読んでいる置物に、こちらのセンスにくすっと同意とも取れる微笑を湛えて、「贈り物、ですよね?」と尋ねてきた。僕は恥ずかしがることもなく「いや、ただ、可愛いから、いいかなっと想って」と呟き返したけれど、アハッ、とあいつはまた好意的な笑いを覗かせ、そそくさと包装紙に包んでくれた。
 そんなあいつが、僕の女の子を産んだ。僕にやがて離婚届けを突きつけた。’
 
 ひとというものは、何故、あんなにも焦がれた恋にあっさりと終止符を打てるものなのか?
 
 意識が覚醒し、目覚めると僕は、夢に見た、あの頃がまるで他人事のように感じられて空しかった。だが、この病室の、この横たわる僕の傍らにいる女の子はなんと説明したら、良いものだろう。
 あの、もなみであった。
 「・・・先生。勇気、あるじゃん」
 いまだかつて見たことの無いもなみの、そのふくよかな微笑が飛び込んできたとたん、僕は止め処(ど)ない滂沱の涙を流さずにはいられなかった。

 みな、揺れている。僕もまた揺れ続ける。
 (あれでお終いじゃあ、なかったのか・・・)
 これのちも揺れ続けねばならないのだろう。またあの大海原さえ、呼んでいる。

           物語稿『揺れている、影。』了
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掌編稿『揺れている、影。』第九稿
2007-01-10 Wed 17:20
 
 揺れていた、影。その心だけが揺れている。

 もなみは、自主退学した。自宅へ立ち寄っても、逢おうとすらしない。物事に始まりは無く、終わりばかりだと、僕は僕自身のふがいなさを嘲る。だが「あなたの力量不足、ですね」そう、さりげなく言う校長の中枢神経とやらが判らない。いじめはいけませんと言ってるはなから、言葉による暴力を吐くじゃないか。実はひとによっては手ひどい言い様である、はずなのに・・・。
 僕も僕の終わりを悟って、退職願いを申し出た。なのに、あの校長は「ひとまず休職願いを受理するという形で・・・」意味が判らない。外聞を気にしてか。詮索する気力も失せて僕は、その日、足早に校庭を横切った。門の辺りから、するすると新聞記者風情の男が歩み寄り、何事か声をかけてきたが、僕はその声すら邪険に遮(さえぎ)って町へと駆けた。もう何もかも信じられなかった。

 その暮れもわずかな日和、僕は久方ぶりにバイクにまたがり、神楽坂の叔母の元へと走った。心配げに僕を見つめる叔母に僕はにこやかに笑顔を手向けた。
 娘の芽衣が続けざまに、こんなことを浴びせかけてきた。
 「はははっ。パパ、情けない!!」
 ひねくれた顔をわざと作って、僕はおどけてみせた。
 「芽衣、おいしいケーキでも食べに行こう」
 キャッキャッとはねる娘を後部座席に乗せ、僕は人形町の、あの想い出の場所へと向かった。いまからは随分と昔のことのようだ。よく、あいつと入った、マンデリン豆をおいしく挽いてくれるお店。ここのレアケ-キを一度、芽衣に食べさせたいものだとずっと想い続けていた。
 娘は、おいしいねおいしいねと連呼しながら、
 「この先、どうすんの?」
 と、挑むような目を見せて問いかけてきた。
 「どうしようかな?まあ、ぼちぼち考えるわ」
 僕が、そう呟くと、芽衣はすかさず、その答えを待っていたと言わんばかりに、
 「だってもう辞めて半年以上、経つじゃない?、ぼちぼちなんてパパらしいよ」
 クスクスと笑い講じる娘の芽衣に僕は、本当のパパはそうじゃないんだよという想いを飲み込んだ。
 娘にだけはけっして見せぬ自分。僕は昔からそんなところがあった。

 娘と別れ、僕はふと人並みに揉(も)まれたくなって以前の町並みが残る路地を訳もなく歩んでいった。そこへあの騒ぎが起こったのだ。喚(わめ)き声と喧騒が交錯する最中を、一群の人垣が一片に僕の方へと押し寄せてきた。なんなんだ?驚いた僕も、その一群の理由をすぐに判然と知った。出刃包丁を持った五十年配の男があらん限りの嬌声を発し、ふらふらとこちらへと歩んでくる。通り魔か!?いや、違う。こんな白昼堂々、刃物などを振り回す者がいるものか?不思議と僕は怖気づかなかった。僕はじっとその男を睨み付けてその男へと挑みかかっていった。
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掌編稿『揺れている、影。』第八稿
2007-01-10 Wed 09:59
 『揺れている、影。Another shadow』③
 揺れていた影、そのこころだけが揺れている。

 仄(ほの)かでは無く、まざまざとまるで赤子が我が母の乳房をひっきりなしにまさぐるかのように、暮れなずむ、その診療所の渡り廊下を僕は、有る確信を感じつつ歩んでいく。暗闇なのだ。或いはそこはけっして診療所の一角ではないのかも知れない。そう、想いたくなるほどの、月明かりさえ射さぬその居所。墓地か或いは洞窟にでも迷い込んだかのような感覚すら僕には、あった。
 おずおずとけれど僕は歩みを進めながら、僕自身の教師生命が、そう、長くはない未来に絶えるであろうことを己に言い聞かせようとする。僕も、やはりか弱い一個の人間として脅えていた?
 受け持ちのクラスの女の子が自殺を謀り、未遂に終わったが、ようやく搬送された、ある地方、奥里深い診療所。或いは、そうだ、精神を病んだ者が自身の肌触(ざわ)りを確かめぬようにすやすやと寝泊りしている場所かも知れぬ。だから、寝息さえ、聞こえないんだ。
 わざと何か、こう、暗いというか、寂しい風情というか、霊の存在を信じている者には最適の場所かも、だなどと。僕は僕にくすくすと苦笑いを起こす。・・・僕もかなり‘やき’が廻ってきているぞ。

 女の子はじっとしていた。だが、目は見開いている。また、なんと薄暗い照明であろう。ほとんど、話しなどしたことも無い生徒。横顔を見て、ようやく、ああ、と判然がついた。僕はこんな調子、だ。マスコミがまたぞろ、「あの高校!!」と囃し立てるのも、そうは遠くない日じつじゃないか。
 女の子がハッと僕の存在に気づき、視線を交わしても僕にはかける言葉すらとっさに想いつけない。その射抜くような目に萎縮して、僕は僕の心根が真っ白になったことをここに白状しておきたい。
 「・・・死ねなかったね」
 ようやく、そんなことを発した。
 「眠りたいだけ、眠りにつけばいいさ」
 そんな呟きも、自身の言葉ではないようだ。
 森閑としている。森の動植物もこれなら安楽に横たわっていることだろうな、なのにふとそんなフレーズが僕のこの胸に沸き立つ。
 ふたり、だけであった。メッキの剥げた点滴台に、わずかに遮光して一本の筋が浮かび上がっている。まるできらびやかに、さえ。その一条の筋にぽたんぽたんと液がしたたり落ちる。そこだけがはっきりと僕のまなこを刺激、した。
 その瞬間、だった。強烈な、まるで胃の腑(ふ)を焦がすかのような凄まじい痛みをさも全身に感じた刹那(せつな)、僕ははっきりとあの時の情景を想い出したのだ。そうだ!!このふたりだけの空間を僕はかつてどこかで目撃したことがある。何故、何故、いま、この瞬間であったことだろう。もうひとりの僕がかつてのうら若き僕が、現在(いま)の僕をどこからか、じっと見つめている。

 ‘新宿の駅構内の、それはよく利用していた西口の明大前へと通じる、確か京王新線の乗降口、入ったばかりのその付近で、まるでそこだけ他と隔離しているかのような、まるでその佇まいばかりが、他者を圧しているかのような、独特の空間を有した一組のカップルを、かつて目撃したことがある。’
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| 美城丈二@魂暴風;Soul storm*a dawn note |
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