2008年09月06日 06:39
2006年12月01日 15:28
揺れていた、影。その心だけが揺れている。
久方ぶりに駆けてきた東京地方は、陽が翳ったあとの暗転、小春日和の午後となった。相変わらずの喧騒。怒号さえ、街の佇まいに溶けてはいるが、いつ、なんどき悲痛な響きを伴った声を発する、ことか、無償に落ち着きを取り戻せない。
僕は、この街でかつての彼女と八月(やつき)を過ごした。
無論、今では苔むすアパートの跡も無く、壮麗なマンションが立ち並び、あの頃の想い出はこの胸にのみ、透くんでいるきりだ。
井の頭線、明大前から次の急行停車駅。僕は二十一、この場所で住処(すみか)を得た。
なぜ、また、この場所へ?僕は答えの有る、問いを僕にぶつけて嗤う。ふと、見やると歩道の端に白線が引いてあり、その中に血痕らしき跡が点在している。僕の記憶は、ふらふらと大久保界隈で一人暮らしをしていた頃に手繰り寄せられる。起きしな、遅れそうだと慌てて駅へと駆けていくあの時の僕の傍らで、それら血痕を前に群れていた警察官の佇まい。ちらと見えた赤い粒の跡は夜半、寝入っていた僕をとっさに呼び起こすほどに剣呑なほどの、銃弾らしき、いや、そうとしか想えぬほどの大音響に通じている、もののはずだ。
この街はドラマや映画の一シ−ンが、普段、さも当たり前のように横たわる、まさに夢幻の居所。不思議と「いやなものを見たな」とは想わない僕の心根も、どうやら年齢を重ねるごとにたびたび僕の意表を突いた、いくつかの迷いごとのせいで、憂さをいっぺんにさも拭えないほどの騒乱のせいで、邪で自分さえ良ければそれでいいんだと、どんな逼塞する事態でさえ袖を振った奴らの傲慢さのせいで、見事、いわば拡散され、多分、生まれついて持っていたはずのものさえもすでに失くしてしまったのかもしれず、などと僕は僕のそんな想いにまた苦笑いさえ生じて気色張る。
バイクへと跨り、東へと疾駆、した。
乾いていた。何もかも。嘘っぱち。
後ろ背に、僕の意識が何者かを憂えていることを強く、強く、感じる。
風の只中で、僕は「来るんじゃなかった」と、僕は僕のこの後悔のまま駆けていく。僕は、この道の、先の静かな佇まいを呈する湖畔のほとりで生まれた。生まれた場所しか、もう僕の憂いごとを覆せない。
「どこへ行ってもひとは変わらないよ」
多重な心根がまた天邪鬼な僕自身を嘲笑う。
(厭だね・・・こんな性分)
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