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2008年09月06日 06:38

掌編稿『揺れている、影。』第九稿

2007年01月10日 17:20

 
 揺れていた、影。その心だけが揺れている。

 もなみは、自主退学した。自宅へ立ち寄っても、逢おうとすらしない。物事に始まりは無く、終わりばかりだと、僕は僕自身のふがいなさを嘲る。だが「あなたの力量不足、ですね」そう、さりげなく言う校長の中枢神経とやらが判らない。いじめはいけませんと言ってるはなから、言葉による暴力を吐くじゃないか。実はひとによっては手ひどい言い様である、はずなのに・・・。
 僕も僕の終わりを悟って、退職願いを申し出た。なのに、あの校長は「ひとまず休職願いを受理するという形で・・・」意味が判らない。外聞を気にしてか。詮索する気力も失せて僕は、その日、足早に校庭を横切った。門の辺りから、するすると新聞記者風情の男が歩み寄り、何事か声をかけてきたが、僕はその声すら邪険に遮(さえぎ)って町へと駆けた。もう何もかも信じられなかった。

 その暮れもわずかな日和、僕は久方ぶりにバイクにまたがり、神楽坂の叔母の元へと走った。心配げに僕を見つめる叔母に僕はにこやかに笑顔を手向けた。
 娘の芽衣が続けざまに、こんなことを浴びせかけてきた。
 「はははっ。パパ、情けない!!」
 ひねくれた顔をわざと作って、僕はおどけてみせた。
 「芽衣、おいしいケーキでも食べに行こう」
 キャッキャッとはねる娘を後部座席に乗せ、僕は人形町の、あの想い出の場所へと向かった。いまからは随分と昔のことのようだ。よく、あいつと入った、マンデリン豆をおいしく挽いてくれるお店。ここのレアケ−キを一度、芽衣に食べさせたいものだとずっと想い続けていた。
 娘は、おいしいねおいしいねと連呼しながら、
 「この先、どうすんの?」
 と、挑むような目を見せて問いかけてきた。
 「どうしようかな?まあ、ぼちぼち考えるわ」
 僕が、そう呟くと、芽衣はすかさず、その答えを待っていたと言わんばかりに、
 「だってもう辞めて半年以上、経つじゃない?、ぼちぼちなんてパパらしいよ」
 クスクスと笑い講じる娘の芽衣に僕は、本当のパパはそうじゃないんだよという想いを飲み込んだ。
 娘にだけはけっして見せぬ自分。僕は昔からそんなところがあった。

 娘と別れ、僕はふと人並みに揉(も)まれたくなって以前の町並みが残る路地を訳もなく歩んでいった。そこへあの騒ぎが起こったのだ。喚(わめ)き声と喧騒が交錯する最中を、一群の人垣が一片に僕の方へと押し寄せてきた。なんなんだ?驚いた僕も、その一群の理由をすぐに判然と知った。出刃包丁を持った五十年配の男があらん限りの嬌声を発し、ふらふらとこちらへと歩んでくる。通り魔か!?いや、違う。こんな白昼堂々、刃物などを振り回す者がいるものか?不思議と僕は怖気づかなかった。僕はじっとその男を睨み付けてその男へと挑みかかっていった。


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