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2008年07月24日 23:40

『ソープの葵』物語稿3・美城丈二

2007年05月11日 18:29

 僕は十代の頃から、見てくれとは裏腹に自身でも可笑しいと想えるほどの酒飲みだった。アルコール系というやつはなんでも呷(あお)った。その日もまた、同僚のみーくんと、ぶらり新大久保の盛り場へと繰り出していった。僕の懇意の店。月灯りで足元も朧(おぼろ)な裏道り。安酒ではあったろうが、多少なりともいや大層に仕事の苦楽を共にする友との歓談、そのときもきっとまた悠々と愉しいひとときであったことだろう。
 と、突然、その店の暖簾(のれん)の先からうら若い女性らしい悲鳴が負ぶさってきた。何事か?とその事件を告げよう雄たけびに、店のほとんどの人々も野次馬よろしく外へと繰り出していく。
「またまたまたぁ!!大久保騒乱劇場と参りましたかね?」
 み−くんは冗談半分のおどけた台詞を吐きつつ、驚いたきりの僕をも促して野次馬をかき分けつつ店の外へと這(は)い出した。いつのまにか怒号と喧騒の渦、その最中だ。正気のさたとは想えないほどの罵声を浴びせる一群がひとつの輪になって、或る男を殴っていた。いや、殴り合っていたあとか?。
 「チェッ、なんだ、一方的ですか?」
 みーくんは、その一群にそんなありありと不遜(ふそん)じみた言葉を蔽(おお)い被せて・・・いや、そうじゃない?
 ひとりの、もろ、あちら風の若者が刃物を懐から取り出す。悲鳴をあげた女は路上にへたりこんでしまった。刺した。男が男を。もうひとりの男をもその男は刺した。
 「コラ!!ぼけなすが!!」
 「ザケンナッ!!」
 突っ伏した男に刃物を持った男が罵声を浴びせる。
 「攻守逆転。」
 みーくんがうすら嗤(わら)ってそう、言った。
 僕はその瞬間、うわっと女の子みたいな声を上げてしまった。突き刺したその音が、のちまるで自分の腹部を刺し貫いたが如く、それは奇妙に想えたほどリアルに僕の脳髄を刺激してしまい仕方が無かった記憶を呼び覚ます。まるでそれはその一帯をいっぺんに包んでしまうかのような、抉るかのような濁音。僕はのちのちまで夢でさえ見たその情景を恐る恐る遠巻きに見入っていた。怖さが先に立つと身動きさえ出来ないものらしい。だが、見知っていた。その店の暖簾を再び潜(くぐ)ったときから、僕はその女を見知っていた。悲鳴をあげた女、へたりこんだ女こそ、そう、あの設楽葵(したらあおい)、彼女だった、ということを。
 「あの女?だよね?」
 振り向いたみーくんも葵だと気づいた様子だった。再び三度(みたび)、男は男を抉(えぐ)った。警官なんてすぐには来なかった。呻(うめ)き声が掠(かす)れ、刺された男がぴくりともしなくなった時、ようやく騒ぎを聞きつけたはずのお巡りさんが足早に駆けてきた。騒乱の一群は既にその場に居なかった。
 「・・・おい?大丈夫か?」
 そう駆け寄り、葵に優しい声をかけたのは、僕ではなく同僚のみーくんだった。


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