永遠を焦がれるままに。A writer;美城丈二Another face綾見由宇也
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掌編稿『揺れている、影。』第八稿
2007-01-10 Wed 09:59
 『揺れている、影。Another shadow』③
 揺れていた影、そのこころだけが揺れている。

 仄(ほの)かでは無く、まざまざとまるで赤子が我が母の乳房をひっきりなしにまさぐるかのように、暮れなずむ、その診療所の渡り廊下を僕は、有る確信を感じつつ歩んでいく。暗闇なのだ。或いはそこはけっして診療所の一角ではないのかも知れない。そう、想いたくなるほどの、月明かりさえ射さぬその居所。墓地か或いは洞窟にでも迷い込んだかのような感覚すら僕には、あった。
 おずおずとけれど僕は歩みを進めながら、僕自身の教師生命が、そう、長くはない未来に絶えるであろうことを己に言い聞かせようとする。僕も、やはりか弱い一個の人間として脅えていた?
 受け持ちのクラスの女の子が自殺を謀り、未遂に終わったが、ようやく搬送された、ある地方、奥里深い診療所。或いは、そうだ、精神を病んだ者が自身の肌触(ざわ)りを確かめぬようにすやすやと寝泊りしている場所かも知れぬ。だから、寝息さえ、聞こえないんだ。
 わざと何か、こう、暗いというか、寂しい風情というか、霊の存在を信じている者には最適の場所かも、だなどと。僕は僕にくすくすと苦笑いを起こす。・・・僕もかなり‘やき’が廻ってきているぞ。

 女の子はじっとしていた。だが、目は見開いている。また、なんと薄暗い照明であろう。ほとんど、話しなどしたことも無い生徒。横顔を見て、ようやく、ああ、と判然がついた。僕はこんな調子、だ。マスコミがまたぞろ、「あの高校!!」と囃し立てるのも、そうは遠くない日じつじゃないか。
 女の子がハッと僕の存在に気づき、視線を交わしても僕にはかける言葉すらとっさに想いつけない。その射抜くような目に萎縮して、僕は僕の心根が真っ白になったことをここに白状しておきたい。
 「・・・死ねなかったね」
 ようやく、そんなことを発した。
 「眠りたいだけ、眠りにつけばいいさ」
 そんな呟きも、自身の言葉ではないようだ。
 森閑としている。森の動植物もこれなら安楽に横たわっていることだろうな、なのにふとそんなフレーズが僕のこの胸に沸き立つ。
 ふたり、だけであった。メッキの剥げた点滴台に、わずかに遮光して一本の筋が浮かび上がっている。まるできらびやかに、さえ。その一条の筋にぽたんぽたんと液がしたたり落ちる。そこだけがはっきりと僕のまなこを刺激、した。
 その瞬間、だった。強烈な、まるで胃の腑(ふ)を焦がすかのような凄まじい痛みをさも全身に感じた刹那(せつな)、僕ははっきりとあの時の情景を想い出したのだ。そうだ!!このふたりだけの空間を僕はかつてどこかで目撃したことがある。何故、何故、いま、この瞬間であったことだろう。もうひとりの僕がかつてのうら若き僕が、現在(いま)の僕をどこからか、じっと見つめている。

 ‘新宿の駅構内の、それはよく利用していた西口の明大前へと通じる、確か京王新線の乗降口、入ったばかりのその付近で、まるでそこだけ他と隔離しているかのような、まるでその佇まいばかりが、他者を圧しているかのような、独特の空間を有した一組のカップルを、かつて目撃したことがある。’
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