2008年07月24日 23:41
2007年09月29日 15:00
☆『向日葵、無残。』掌編寄稿・風友仁
まだ、その花が咲き誇るには早過ぎた。
八分咲きにもほど遠い。
つぼみのままで流れてしまった・・・。
長雨と雷雲が重なり合って、九州地方は未曾有の惨事を舐めた。ありもしない地平に湖は生まれ、濁流となって人々を飲み込んでゆく。
窓辺越しの、向日葵の幹。それはお隣のものであったが、折りからの豪雨を受け、左へ右へとしなっていた。いまにもぷつりと折れそうに感じられ、そんな、その日の土曜日のこと、僕は自室でひとり、そんなこんなを本当のところは憂うこともせず、彼女ばかりを想っていた。
彼女には子もあった。別れたばかりの彼女とその子供たちの安否を気遣うメール、僕はそれを彼女に送ろうかどうか、思案していたのだ。躊躇、する。いや、安否というよりも激励?・・・いや、この言葉もおかしい・・・編み、送信するばかりの段になって、僕はことをやめた。
「返信は要らないよ。
ひどい雨だね。子供たちもきっと今度ばかりは、
脅えていることだろうね?
君たちのことが心配だけれど、
僕が君たちのところへゆくことは、
大きなお世話だろうから、よすよ。
明日には、雨もあがると言う。
きっと、この一晩のことだろう。
君も、ちょっと心細いだろうけれど、
子供たちを守ってほしい。
僕は、心から君たちのことを祈ってるよ。」
そう、打ち込んで結局、送信しなかった。
雨は、翌朝には小康状態となり、僕は同じ街に住む姉貴たちのことも気になって、車で駆けてみると、道ゆく道は無く、しかたないとばかりに歩んで行くことにした。ゆかるんだ家財道具が、庭一面を覆いつくしている、家屋。畳みらしきと想われるへの字に折れ曲がった、それら惨状。あそこの家も傾いている。泥土がへばりつく、いずこは白壁だったろう場所。壊れかけたドアー。濁流で、きっと跡形も無い畜産倉庫。TVだろ、冷蔵庫だろ、洗濯機に、洗面台、タンスだろ、CDプレーヤー、パソコン、家具調こたつに、掃除機だろ?、もう、どれもこれもが砂塵の荒野を踏みしだくかのように、僕のこころに自然の脅威の怖ろしさを代弁しているかのように、厭がうえにもはかなさを投げかけてくる。
皆、押し黙り、暗い顔のまま、泥土をはらっていた。
が、そのときだった。僕は、判然とある想いを抱き、すぐさま飲み込んだのだ。
僕にはやっぱり、いまだに見えていない。
まさに被災地の、今にも流されゆく人々の声無き声を、昨夜、僕は聞いたか?
聞こえはしない。僕が考え付いたのは、彼女のことと子供たちのことばかり。
これが、彼女が嫌った僕の欺瞞だったろうか?偽善だったろうか?
これが僕の歪んだ情念、想念・・・信念、愛情?。
それが君が遂に信じきれなかった、僕の気遣い、というものだろうね?
天井にまで被った土砂を振り落としてみたり、地軸の動いた木造車庫をようやく、その体裁にもどしたりと、僕はその日の半日を姉貴のうちで過ごし、くたびれた足で自宅へと帰ってきた。そこには、いまでもひとりである。どっと疲れがでて、また降り出した雨を見つめつつ、僕は寝た。夜半に目が覚めた。見やると、窓辺越しに、あの向日葵がくず折れていた。茎だけのありようが、雨にそぼふる街灯に映えている。
まだ、その花が咲き誇るには早過ぎた。
八分咲きにもほど遠い。
つぼみのままで流れてしまった・・・。
長雨と雷雲が重なり合って、九州地方は未曾有の惨事を舐めた。ありもしない地平に湖は生まれ、濁流となって人々を飲み込んでゆく。
窓辺越しの、向日葵の幹。それはお隣のものであったが、折りからの豪雨を受け、左へ右へとしなっていた。いまにもぷつりと折れそうに感じられ、そんな、その日の土曜日のこと、僕は自室でひとり、そんなこんなを本当のところは憂うこともせず、彼女ばかりを想っていた。
彼女には子もあった。別れたばかりの彼女とその子供たちの安否を気遣うメール、僕はそれを彼女に送ろうかどうか、思案していたのだ。躊躇、する。いや、安否というよりも激励?・・・いや、この言葉もおかしい・・・編み、送信するばかりの段になって、僕はことをやめた。
「返信は要らないよ。
ひどい雨だね。子供たちもきっと今度ばかりは、
脅えていることだろうね?
君たちのことが心配だけれど、
僕が君たちのところへゆくことは、
大きなお世話だろうから、よすよ。
明日には、雨もあがると言う。
きっと、この一晩のことだろう。
君も、ちょっと心細いだろうけれど、
子供たちを守ってほしい。
僕は、心から君たちのことを祈ってるよ。」
そう、打ち込んで結局、送信しなかった。
雨は、翌朝には小康状態となり、僕は同じ街に住む姉貴たちのことも気になって、車で駆けてみると、道ゆく道は無く、しかたないとばかりに歩んで行くことにした。ゆかるんだ家財道具が、庭一面を覆いつくしている、家屋。畳みらしきと想われるへの字に折れ曲がった、それら惨状。あそこの家も傾いている。泥土がへばりつく、いずこは白壁だったろう場所。壊れかけたドアー。濁流で、きっと跡形も無い畜産倉庫。TVだろ、冷蔵庫だろ、洗濯機に、洗面台、タンスだろ、CDプレーヤー、パソコン、家具調こたつに、掃除機だろ?、もう、どれもこれもが砂塵の荒野を踏みしだくかのように、僕のこころに自然の脅威の怖ろしさを代弁しているかのように、厭がうえにもはかなさを投げかけてくる。
皆、押し黙り、暗い顔のまま、泥土をはらっていた。
が、そのときだった。僕は、判然とある想いを抱き、すぐさま飲み込んだのだ。
僕にはやっぱり、いまだに見えていない。
まさに被災地の、今にも流されゆく人々の声無き声を、昨夜、僕は聞いたか?
聞こえはしない。僕が考え付いたのは、彼女のことと子供たちのことばかり。
これが、彼女が嫌った僕の欺瞞だったろうか?偽善だったろうか?
これが僕の歪んだ情念、想念・・・信念、愛情?。
それが君が遂に信じきれなかった、僕の気遣い、というものだろうね?
天井にまで被った土砂を振り落としてみたり、地軸の動いた木造車庫をようやく、その体裁にもどしたりと、僕はその日の半日を姉貴のうちで過ごし、くたびれた足で自宅へと帰ってきた。そこには、いまでもひとりである。どっと疲れがでて、また降り出した雨を見つめつつ、僕は寝た。夜半に目が覚めた。見やると、窓辺越しに、あの向日葵がくず折れていた。茎だけのありようが、雨にそぼふる街灯に映えている。
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